自殺の危険性の高い人々とは?   自殺そして依存症 


 

この文章について

高橋 祥友先生の「自殺の危険」15〜28ページを参考にして、自殺の危険性の高い人についての説明をしました。当然のことですが、自殺をした人、自殺未遂をした人のすべてに、以下の事柄があてはまるわけではありません。それから自殺の「理論」であって、確定した事実ではありません。
また多かれ少なかれ、どの人にもあてはまる要素もあります。管理人はさしずめPC&矢田亜希子依存症(笑)でしょうか?

でも、この文章はメンタルヘルスだけでなく子育てにも役立つと思います。
結論からいえば、「赤ちゃんは可愛がって育てよう!」ということ。

ここを読む前に、職場における自殺の予防をまずお読みください。



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マルツバーガーは自殺につながる三つの耐えがたい感情・・・深い孤独感、無価値感、殺害に至るほどの怒りについて述べています。これらの感情の起源は赤ん坊の頃までさかのぼるのです。つまり自殺しやすい人の心は、赤ん坊のころに遡って形作られる可能性があるのです。

 

(1)赤ちゃんは、お母さんの心をとりこむ

 

@安心感の獲得

生まれたばかりの赤ん坊は、自分とお母さんとが結びついた存在と感じています。寒さ、空腹、口渇、不快などの危険を感じるとオギャーなどと泣いて母親に訴えます。これに母親が適切に対応してやると・・・おしめを調べ濡れていれば替えてやる、おなかが空いていそうだと思えばミルクをあげる・・・多少ズレた対応になっても試行錯誤の結果、赤ちゃんの望みに行き着いて、お母さんは何とかする。

大事なことは、その結果赤ちゃんは安心感にひたるのです。お母さんは色々あるけど結局は何でもしてくれる全能の存在と感じるので、お母さんとが結びついた自分自身(赤ちゃん)も全能と思えるのです。

 

A分離不安の発生

赤ちゃんは成長するにつれ、自分とお母さんは別々の存在と感じるようになる。すると自分は全能でないということに気づきだします。その結果、お母さんから離れることの不安(分離不安)を感じるようになり、離れることは自分の弱さをさらけ出されることに気づきます。この分離不安が抽象化、一般化(チョッと難しいかな?)されて、お母さんを失ってしまう不安が生まれてきます。

 

B親のはたらきのとりこみ

子どもが成長して、母親を失う不安を持つようになっても、両親や周囲の大人がその子の不安に適切に対処してあげた場合は、小さな分離不安が生まれたとしても、子どもは楽観的に対処できるようになります。その結果、両親の果してきたはたらきや役割、すなわち自分自身に価値や承認を与えるはたらき*が取り込まれて、健康な成人なら誰でも持つ自分自身への自信や肯定的な評価を与える能力(実はそれは自己をコントロールする能力なのです)が生まれてきます。

*「自分自身に価値や承認を与えるはたらき」とは、簡単にいえば自分を大事に思う気持ちです。あるいは自分にはいろいろな欠点はあるけど、いいじゃないの、などと思うことです。あるいは自己の充足感、自分の能力への信頼感、安定した感情、自分の価値を自分で認めること。

 

健康な成人は、周りに自画自賛する程ではなくても、内心こういう気持ちを持っているのです。自分自身への自信や肯定的な評価を与える能力が不十分な場合、他人に、かつてお母さんがしてくれたはずの働きを求めて、物事に依存するようになります。依存には家族や友人、あるいは男女の性関係、アルコールや薬物などへの依存症、買い物やギャンブルなどへの依存症などがあります。もちろん仕事への依存症もあります。
注) (5)で詳しく述べます。

 極端にはしると自殺によって、耐えがたい圧倒的な絶望感や悲嘆から逃れようとする気持ちも生まれます。

親のはたらきのとりこみが不十分、つまり自分を大事に思う気持ちが発達しないと「一人で放っておかれた孤独感に耐える能力が乏しい人」になります。こうなる原因として、親の子どもに対する無視や虐待だけでなく、必要な時期に親が子どもに興味をもてなかった場合が多いようです。あるいは親子関係が決定的に破綻した場合、子どもが親の像を歪めてしまうとこうなります。

さらに子どものころ愛情のない養育や無視、虐待する親という、「情け容赦なく批判的な親のはたらき」を取り込んでしまいます。一見すると謙虚のように感じられますが、自分に対して過度に厳しい人柄となってしまいます。その結果、「自分は両親の愛を失って、もう取り返しがつかないヨ!」と思っている子どもになったり

     「自分自身を大事に思う意味は全くないヨ!」とか「自分はダメ人間、なんて嫌な人間なんだ!」

と決めつける大人になったりします。

    

 

(2)自殺しやすい人の深い孤独感

 自殺しやすい人は、心の内側にとても深い孤独感を持っています。はた目の振る舞いだけでは判らないことですが。

上に述べたように子どものころに

@不安を適切な形でお母さんに軽減されなかったとか、長期間なんらかの絶望感や恐怖を体験した場合に自分を大切にしなくなります。その結果、身体への危険や、苦痛に満ちた感情へとかえって突き進むという自己破壊傾向が生じます。

たとえば職場の検診で、あきらかに要治療となっても平然としている人なんかもそうです。

A危険や緊張にさらされると強い不安が生まれて、誰かが助けてくれないと総ての行動が麻痺したり、絶望感が生じて不適応行動・・・アルコールに逃げるなど・・・をとってしまいがちになるのです。

B援助してくれる人物やモノから離れることににたいして極度の不安感が生れて、「見捨てられてしまう、絶望的だ!」などという深い孤独感が生まれます。

 

(3)自殺しやすい人が感じる無価値感

前述したように自殺しやすい人は自分自身に自信や良い評価を下せないどころか、自分が生きていくのに価値を感じません。誰からもすっかり見放されたと感じることは、自分の無価値感を実感することにもなるわけです。要するに自己を低く評価し、無価値感や自己嫌悪を生むのです。

 

(4)自殺しやすい人が感じる、殺したくなるほどの怒り

@愛情のない養育や無視、虐待する親にたいして子どもは敵意を持つようになり、怒りを込めて反応します

Aそうはいっても母親と分離することへの不安があるため、大人になって愛するものを喪失する恐れが迫ると、「殺害に至るほどの怒り」を生じて自分を制御できなくなります。

Bこの怒りが相手に向けば他殺や心中になり、自分に向くのが自殺です。。

C「殺したくなるほどの怒り」の多くは自殺になるわけですが、愛する相手を殺害するのを避けるつまり相手を守ろうとして自殺したり、「殺したくなるほどの怒り」に対して強い自責の気持ちを感じて自殺するのです。

 

結局、愛して保護するというお母さんのはたらきが赤ちゃんに取り込まれてはじめて、適切な心が生まれると自分を愛し、自分を保護するという人間本来のはたらきが生まれるのです。だからそれが形成されていない人は、自己の身体を適切に管理することに無関心になり、慢性疾患になったり、悪化してもかまわないという自己破壊傾向をもつようになるのです。「自分は価値のない人間なので、大事にする必要はない」というわけです。

こういう人々は自分を嫌悪し、自分自身に無関心で、他人に対しても反発される言動を引き出しやすい。これらの結果は逆に原因となって、親しい人も離れていってしまうという悪循環を形成します。

 

「親のはたらきのとりこみ」は次のようなプロセスで発達します

@母親が子どものために果していた機能を、発達の段階に応じて減らしていき

A小さな数え切れない、適切な親と子の分離を体験していくことで

B喪失に打ち負かされることなく、母親の機能を獲得していく

C危険に直面しても適切な不安*によって緊張の軽減や救済の期待が生じる。

*支援を求めるためのより適応した形の不安反応の現れで、最終的には自分の行動をコントロールして、自分自身の能力に頼りながらも、必要に応じて他人の援助を得ながら緊張を軽減していくこと。

 

(参考)アントノフスキーにのSOC(わからない方は飛ばして結構です)

有意味感;自分自身の働きかけによって、望んだ結果が得られた子どもほど、意思決定に参加しているので、有意味感が育つ。ただし、親の応答には肯定的な感情が込められていることが必要。

把握可能感;乳幼児は生まれながらにして、安定し一貫した応答を促進する様々な方法で相互作用を行うことができるし、世界は継続性のある存在だということを検証できる。ただしそれには、親や周囲の適切な反応が必要

処理可能感;過大でも過小でもない課題があたえられて、親による「無視、拒否 < 方向付け、激励」という4種類のバランスのとれた応答がなされると強化される。

 

 

(5)自殺のリスクの高い人の依存

繰り返しになりますが、自殺しやすい人は、生きていく中で体験する種々の困難に際して、圧倒されるほどの苦悩に耐えることができにくいのです。そして自分の行動をコントロールして、自分自身の能力に頼りながらも、必要に応じて他人の援助を得ながら緊張を軽減していくことが困難です。だから、この苦悩に耐えるためには自分の心以外の、何かに依存しなければならないのです。依存の対象には@他者 A仕事 B自分の身体や精神の一部分などがあります。この援助者や物が失われた時、自殺の危機が訪れる。それらが回復できないか、代替できない時に自殺が起こるのです。

 

@他者への依存

自分を支えてくれる人を理想化して固執します。でもその人から見捨てられるのではないかという恐怖から、

1)病的に嫉妬深く 
2)過度に依存的になり 
3)要求が多くなり

かえって嫌われてしまい、恐れていた結果(頼っていた人が離れていく)を招きかねません。さらに他者の人格全体を愛しているのではなくて、その人の与えてくれるもの(愛情、お金、などなど、圧倒される苦悩を慰め、自尊心を高めてくれる)・・・が欲しいので

4)依存している友人や恋人が容易に替わってしまったり

5)行きずりの性行為となったり

6)恋人の完全な人格ではなく、ある身体の部分を偏愛したりということも生じます

7)他者が集団である場合、指導者を理想化する・・・この理想化が破綻すると自殺へつながります

 

A仕事への依存

1)不十分ではあるが、仕事が極端な不安を和らげている人もいる

2)仕事を失うと危機的状況になる

3)仕事以外に価値を見出せない

4)他人が与える賞賛以外には、他人に無関心になる傾向をもちます

 

B自分の身体や精神の一部分への依存

1)フェティシズム・・・自分の身体のパーツ

2)運動能力など

を偏愛し、これが損なわれると自殺へつながることもあります

 

 

(6)まとめ

人生上の種々の困難にさいして生まれる、心の緊張に適切に対処できる、自己コントロール能力が十分に発達できなかったために自殺しやすくなります。結局、自殺の危険性は発達の早期から自己破壊傾向として認められ、様々な出来事の形として現れてきます。こういう人の生活史を振りかえり、それぞれの危機に対してどう反応してきたか分析することがその人をどのように支援するかのカギになります。

一度でも自殺未遂をした人は、そうでない人に比べると、その後の人生で自殺する危険性が数百倍もあるので、大事にしてあげる(表現がヘンですが)べきなのです。

 

 

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